「そんな話の後編」

2013/04/15

地方にお仕事で行くときの話。
大阪とは事情も勝手も違い、いつも新鮮でワクワクします。
前回のお話
今回はもう仕事の話はありません。
昼から続く長いミーティングが一通り終わると、時間はもう夕方の5時か6時。
一旦事前に予約したビジネスホテルに戻り、社長と一緒に夕飯を食べる為、夜にまたお迎えが来ることになっている。
わざわざ車で迎えに来てもらえることは嬉しいのだけれど、泊まっている駅前のホテルから、駅の反対側の商店街に行くだけだ。
阪急梅田駅から地下鉄西梅田駅に乗り換える距離よりは近いと思う。
新しくなった東急東横線渋谷駅から京王井の頭線渋谷駅に乗り換える距離よりも断然近いと思う。
店の数も少なく遠方からのお客さんが多いと、お店の選定がシビアになるせいか、料理屋さんはどこに連れて行ってもらっても大体美味しい。
曰く、食材に恵まれた地域の料理人は、それに甘えて料理の腕を磨かない人が多く、本当に美味しい店はほんの少ししか無いらしい。
厳しい意見だ。
それに、大阪から来る客と料理屋さんに行くときは気を使うようだ。
大阪では滅多に不味い料理屋さんに当たる事が無いからだろう。
美味しい料理屋さんに恵まれた大阪では、それに甘えて本当に舌の肥えた人は少ないと思う。
お店セレクトの基準は味よりも、値段や雰囲気、そして目新しさ。
地方の料理屋さんの話も大阪の料理屋さんの話も、まるで日頃の商品開発のようだと思った。
そんな美味しいお店は慎ましい商店街の裏路地にある事が多い。
慎ましいという表現が適切かどうか分からないけれど、シャッターは割と目に付く。
ある時のこと、
ひっそりとした外観でカウンターといくつかのテーブルがあるだけの小料理屋の様なお店に入った。
店主が料理を作って女将さんが料理を運ぶ、その女将さんは店主の奥さん、というスタイルだった。
当たり前のように社長と店主の世間話が始まる。
お店の店主と顔なじみなんだなと思っていたら、隣の客も話に割って入ってきた。
隣の客とも顔なじみなのですねと社長に言うと、そこはそうではないようだ。
後ろのテーブル席に座っているサラリーマン風のグループは役所の人達だった。
女将さんがそのグループの中で一番若い男性と談笑している。
聞こえてくる話し声によると、その男性は店主夫婦の息子と同級生らしい。
女将さんが厨房裏に戻ると、若い男性は上司の人生についての話に耳を傾けている。
外の雰囲気とは裏腹に、店の中はとても温かい雰囲気に包まれていた。
聞こえてくる話が曖昧なのは、方言で半分くらいしか分からないからだ。
食事が終わり休憩がてらのように近くの静かなバーに入った。
バーのマスターは元芸人だという。
年齢は僕の少し上くらいに見える。
彼の元相方は地元のガソリンスタンドでアルバイトをしているらしい。
魅せる仕事をしていたからか、マスターのシェイカーの扱い方はとても上手かったが、残念な事に僕のカクテルのボキャブラリーなど、ジントニックかジントニックかジントニックくらいしか無い。
もちろん僕はジントニックを注文した。
横にいる社長はファイヤードラゴンだかキャノンデールだかみたいな名前のカクテルを注文した。
名前はうる覚えだが、一体何を混ぜたらそんな名前になるのだろう。
そのバーのマスターは、界隈の人間の動向をだいたい知っている。
客の仕事内容や経営状態、客同士の関係性や家族関係。
聞きたい情報や聞かれたくない情報も握っている。
その上で客は話をしにお店に来る。
マスターはある客には相談に乗ったり、ある客の前では静かに佇んでいたり。
そんなお店は常連さんらしい客でそれなりに席が埋まっていた。
僕はマスターを賢者のようだと思った。
お酒を一杯ずつ飲んでお会計をしてもらうと、二人で4000円だった。
それからスナックのようなお店に行った。
スナックのようなお店には行ったことが無いから、スナックと言うのかどうかは分からない。
お店に入ると、カウンターに陣取った二人の客が昭和の歌謡曲をカラオケで熱唱していた。
お店のママは中国訛りの流調な日本語を操っていた。
なんだか懐かしい。
しかしこの後に役所の団体が来るらしく、一杯だけ飲んで帰る事になった。
水のようなウイスキーの水割りを飲んで足早にお会計をしてもらうと、二人で4600円だった。
地方の出張とはいえ、一社しか行かない場合、ほんとは日帰りでも何とかなるのだけれど、ミーティングの場ではできないような深掘りした話もたくさんできるし、もっと期待に応えないとというモチベーションになるので、こうした時間は出来る限り持ちたいと思っている。
飲食代はいつも奢ってもらっているのだが。申し訳ない
それからぶらぶらとシャッター街の入り口に構えるタクシーの配車所のような所に行くと、驚いたことに酔っ払いで順番待ちの状態だった。
並んでいる人達がなぜか全員役所の人に見えるから不思議だ。
受付のおじさんに何の為にあるのか分からないチケットを貰って列に並ぶと、ガレージみたいな狭い入口の奥の方から次から次にタクシーが出てくる。
あの裏側はいったいどうなっているのだろう。
僕は天空の城の底から出てくるロボット兵を思い出した。
そんな思いを巡らせながら、タクシーに乗って駅の反対側のホテルに帰るのであった。
終り
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